いかにして「集中できる場」を作るか?~メール、チャットは無視!マルチタスクを止めよう

2022年5月12日木曜日

時間の基礎

結論の前に

最初に少しだけ言い訳を。
さすがに「メールもチャットも完全に無視!」とはいきません。それでは仕事になりませんよね。
「でもタイトルに『無視』って書いてあるじゃないか!」そうですね、ちょっと誇張して書きました。実際には「無視する時間と、対応する時間を分けよう」という意見です。そうすることで、仕事の能率を上げることができます。

結論

以下のポイントに気を配って、仕事に集中する場を作りましょう。 1 つ 1 つの作業に集中する環境を作れれば、作業の能率が上がります。

  • タスク一覧をアウトプットする(ToDoリストなど)。
  • 「常に気にかけておくこと」を極力減らす。
  • 一日の業務を、時間を区切ってスケジューリングを行い、スケジュール通りにシングルタスクで作業を行う。

具体例

具体的には、以下のような部分に気をつけると良いと思います。

  • メールを処理する時間をスケジューリングする
    • 決まった時間にメール処理し、それ以外の時間は見ない。
      たとえば 9:00 ~ 9:30 と 13:00 ~ 13:30 と 17:00 ~ 17:30 のように。
    • 急ぎの割り込み用事は電話をかけてもらう、などツールを使い分ける。
  • 複数の業務を同時にアクティブにしない
    • 他の業務が気になって、能率が悪化してしまうのを避ける。
    • どうしても必要な時は、時間でキッチリ分ける。他の業務が気になる状況を減らす。
  • ToDoはすべて書き出して、処理する順序も決める
    • 「忘れないようにしよう」と考えなくて済むようにする。
    • できれば簡単に終わる物から片付ける。どうしても気になるToDoがある場合は、それを最優先にして片付ける。
    • 一日の最初に「本日のToDo」の計画を立てる。その順番通りに業務を行う。

マルチタスクは能率が下がる

いくつもの仕事を、同時並行させながら進める優秀なマネージャーがいると「格好いいなぁ、ああなりたいなぁ」と思ったりします。同時並行(マルチタスク)で仕事をしている人を見ると、確かに「いかにも仕事を切り盛りしている」と感じますよね。
ですが、はたしてその仕事の仕方は能率的なのでしょうか?

実は、マルチタスクは能率が下がるということが知られています。

脳は「タスク切り替え」が不得意

ワシントン大学のソフィー・ルロイ博士は「脳はタスクごとに注意を切り替えるのが困難である」という事を発見しました(*1)。
多くの場合、注意の一部は中断されたタスクに集中したままで、新しいタスクに完全に切り替わらないそうです。これをルロイ博士は「注意残余」と名付けています。

実験では「タスクAからタスクBに移る時、人の注意力はすぐにはついていかない事」が判明しました。タスクAに対する「注意残余」が、タスクBの実行中であっても頭に残り続けてしまうということです。
しかもタスクAに残課題や問題点が多ければ多いほど、「注意残余」は色濃く出てきます。

つまりマルチタスクに仕事を進めていると、実行中ではない方のタスクに「注意残余」が発生し、結果として実行中のタスクに対する集中力が落ちるということです。これにより作業の能率は低下します。

集中を乱さない事が重要

つまり「注意残余」が発生しないように、シンプルに目の前のタスクだけに集中することで能率悪化を防ぐことができます。
そのためには、タスクBを実施中にタスクAの事を思い出さないような、集中を乱さない仕事の進め方が重要になってきます。

ここで気を付けなければならない点があります。
日常業務には、たくさんの「マルチタスク的業務」が潜んでいます。特に意識することなく、当たり前の事のように対応していた事でも、実は人の集中力は削がれているのです。
どのような業務で人の集中力が削がれているのか、確認していきましょう。

ごく些細なことでも集中力は削がれる

この「集中」というのは、実はかなり繊細です。日常業務で当たり前にやってしまっている事の中にも「実は集中力を削いでいる」ことがたくさんあります。

ここでは 3 つの例を挙げて、繊細さをご説明いたします。

  1. メールや電話を常に気にしている状態は、思考力を低下させる
  2. ハイパーリンク付きの文書と無しの文書では、ハイパーリンクなしの文書の方が理解度が高くなる
  3. スマホをサイレントモードで机の上に置いておくだけで、試験の結果が悪くなる

メールやチャットを常に気にしている状態は、思考力を低下させる

ロンドン大学の心理学者グレン・ウィルソン博士によると「Eメールやテキストメッセージに反応するために常に仕事を中断している人は、一晩の睡眠を失ったのと同じような影響を精神に受けている」とのことです(*2)。
「メールにはすぐ返信しなければならない」と考え、常にメールが来ていないか気にし続けているだけで集中力は削がれるのです。
しかも「徹夜明けと同じぐらい」にまで思考力が低下するとなると、相当能率が落ちていると想像できます。

最近では ChatWork や Slack など、ビジネスチャットツールも広く使われています。これはリアルタイム性があり便利だから導入されているのだと思いますが、常にメッセージを気にしている状態だと能率が下がってしまいます

チャットを確認する時間のみステータスをアクティブにし、それ以外はステータスをビジーにして通知を受け取らないようにするなど工夫してみましょう。もし急ぎの用事がある時は個別にチャットを送ってもらって、その通知だけを受けるように設定しておきましょう。

ハイパーリンク付きの文書と無しの文書では、ハイパーリンクなしの文書の方が理解度が高くなる

Web ページでは、よくハイパーリンクによる補足が行われています。出典元へのリンクだったり、より詳しい説明ページへのリンクだったりが有ります。
確かに便利なのですが、しかし「ハイパーリンク付きの文書は、ハイパーリンクなしの文書と比較して、内容の理解度が落ちる」ということが分かっています。

アルバータ大学のデイヴィッド・マイアルと、ブリティッシュコロンビア大学のテラサ・ドブソンによる実験(*3)では、ハイパーリンク付きの文書とハイパーリンクなしの文書を被験者に読ませました。その後、内容について尋ねたところ、ハイパーリンクなしの文書の方が被験者は内容をより深く理解していたとのことです。

文書の中に現れるハイパーリンクですら、人の集中力は乱されてしまいます。こんな些細なことでも、悪影響がある事に驚きます。
ハイパーリンクの方に意識が持っていかれることで「注意残余」が発生し、その後文書の理解の邪魔をしてしまうんですね。

スマホをサイレントモードで机の上に置いておくだけで、試験の結果が悪くなる

テキサス大学のエイドリアン・ワード教授らの研究チームによると、「スマートフォンがそこにあるだけ」で人間の脳の処理能力が消費され、仕事や勉強のパフォーマンスを低下させる影響があることが明らかになりました(*4)。
ワード教授らは、800人のスマートフォンユーザーを対象に、例え実際に使用していなくてもスマートフォンが身の近くにあるだけでどのような影響を与えるのかを調査する実験を行ったそうです。
被験者にはスマートフォンをサイレントモードにさせた上で、 4 つのグループに分けました。

  1. スマートフォンを机の上に画面を下にして置く
  2. ポケットに入れる
  3. バッグに入れる
  4. 隣の部屋に置いておく

そして参加者に「深く集中しないとクリアできない課題」を与えました。
すると「4.スマートフォンを隣の部屋に置いたグループ」が最もよい結果を示し、「1.机の上にスマートフォンを置かせたグループ」が最も悪い結果を残したとのことです。
また、「2.ポケットに入れさせたグループ」「3.バッグに入れさせたグループ」は、隣の部屋に置かせたグループよりもやや低い結果でした。

研究チームはこの結果から「自分の近辺にスマートフォンがあるほど意識がそちらに引っ張られ、脳の認知能力の一部が消費されてしまうことが明らかになった」と言う見方を示しています。

集中力が削がれる=「注意残余」が発生している

前述のとおり、「注意残余により、他のタスクの事が気になって能率が悪くなる」ことが分かっています。
また、「集中力が削がれる」ということは、仕事への集中から、別の情報に集中が切り替わった、という状態です。
そして、前項で記載した通り、ほんの些細なことで人の集中力は削がれます。

これらを総合すると「ほんの些細なことで人の集中力は削がれる。すると注意残余が発生する」ということになります。
5 分おきにメールチェックなんてしていたら、いつまで経っても集中できません。

この状態を避けるためには、少しでも「集中力を削ぐ原因」を取り除く事が大事になります。
結果的に、文頭に記載した結論によって「集中力を削ぐ原因」を取り除き、より能率的に働ける環境を作ることができます。

書籍「スマホ脳」

スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンの著書「スマホ脳」(新潮社)でも似たような事が書かれています。能率化という意味で参考になりますので、お時間が有る時に読んでみてはいかがでしょうか。

脳には切替時間が必要で、さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余(attention residue)と呼ぶ。ほんの数秒メールに費やしただけでも、犠牲になるのは数秒以上だ。切替時間の長さを確定することはできないが、ある実験が示唆している。集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという。

──「スマホ脳」アンデシュ・ハンセン


現代は、様々な要因で集中力が削がれます。一番分かりやすいのはスマホの影響でしょう。ただ「スマホが唯一絶対の悪者」と解釈して本書を読むと、主旨からかけ離れていきます。スマホであろうが、マルチタスクであろうが、メールを気にするのであろうが、どれも「能率を落とす要因」の 1 つです。

能率を落とさないためには、要因の 1 つだけを退治したら万事オッケーなのか? それは違います。
「スマホに気を取られる」と同様のことが、日々の業務の中で発生しないようにしなければならない、という解釈で目を通してください。

きっと「タスク管理とスケジューリングが重要」という結論になると思います。

■参考

(*1) : Sophie Leroy, Aaron M.Schmidt(2016) 「The effect of regulatory focus on attention residue and performance during interruptions」
(*2) : 'Infomania' worse than marijuana | BBC
(*3) : David S. Miall, Teresa Dobson (2001) 「Reading Hypertext and the Experience of Literature」
(*4) : 「スマホがそこにあるだけ」で無意識のうちに脳のパワーが消費され勉強や仕事のパフォーマンスが落ちてしまうことが判明 | gigazine

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