効率が悪い!? しかし、それでもマルチタスクをすべき2つのケース

2022年11月17日木曜日

時間の基礎

結論

人間の脳みそは、マルチタスク作業だと効率が落ちることが知られています。

しかしマルチタスク作業には 2 つの大きなメリットもあります。

  1. やる気が増大する
  2. 失われた集中力を復活させる

つまり、以下のようなケースでは効率を落としてでもマルチタスク作業を取り入れた方がいいと考えられます。

  1. いくつかの「やらなければならないけれど、好きではない、気乗りしない」作業を並行して進めることで、やる気をアップさせよう!
  2. ずっと同じ作業を続けていて飽きてきた時に、違うタスクをこなして集中力を復活させよう!

マルチタスクは効率が悪い、しかし喜びがある

マルチタスク作業は効率が悪い、という事は研究から明らかになってきています。

しかし、マルチタスク作業を行うことで、人間は喜びを感じてしまいます。マルチタスク作業は効率が悪い、しかし喜びを感じる。この作用を逆利用してみましょう。

ドーパミンの分泌とその効果

精神科医である「スマホ脳」の著者アンデシュ・ハンセンはこう書いています(*1)。

ドーパミンは「神経伝達物質」の一種で、人間の行動のきっかけになる物質だといえます。特に興味や好奇心など、「何に注目するか」を決める重要な物質です。

食べ物を食べようとしたり、他人とコミュニケーションを取ったり、あるいはセックスをしたりと、ドーパミンは「生存のために重要なこと」をする際に分泌されるのです。

ドーパミンは「報酬系ホルモン」とも言われます。頑張って結果を出したときの達成感や満足感をもたらす物質です。
人間はドーパミンが出ると快感が広がります。その喜びを求めて、ドーパミンが出る行動を好んで行うとされています。

ドーパミンがより多く分泌される状況

ドーパミンがより多く分泌されるのは「確実に結果を得られる」時よりも「得られるかもしれない」という不確実な状況だという実験結果があるそうです。

アンデシュ・ハンセンは、こうも書いています(*1)。

次のような実験があります。

音を鳴らしたあとに、マウスにジュースを与えるという実験です。これを行うと、マウスの脳内では、音が聞こえた段階でドーパミンの分泌量が増加するようになります。

ただ、ドーパミンが最も多く分泌されるのは、音が鳴ったあとに必ずジュースが出てくる場合ではなく、「ジュースが時々出てくる(例えば半々)とき」だったんです。

私たちの脳は、生き残る上で重要な「ご褒美」を確実にもらえる状況よりも、「多分」とかもらえる「かもしれない」という不確実なシチュエーションが大好きなんです。

(中略)

狩猟・採集を行っていた時代は、必ず獲物や果実を得られたとは限りません。ただ、「獲物が見つかるかもしれない」と探しに行かなければ、生き延びることはできなかった。

マルチタスク作業の逆利用

つまり、人類は生き延びるために「マルチタスク作業にドーパミンという報酬を与える」という進化の過程を経たと言えます。
そのドーパミンにより達成感や満足感を得ることができるのですから、それを逆に利用してみましょう。

もともと好きではない作業をやる時に、あえてマルチタスク的に並行作業でやってみましょう。それぞれの作業に気乗りしなくても、最終的に「目標の時間内に、最適なタスクを切り替えながらこなした」という事実で達成感や満足感を得られるようになると思います。
個々の「好きではない作業」でなく「達成感のあるタスク群」として処理することで、やる気をプラスしましょう。

結果的に計画通りにタスクをこなすことができるようになります。

ただし、効率が悪い事をしている自覚はお忘れなく!
ドーパミンの分泌により、過剰に自己評価が高くなりがちですので。

ドーパミンの効果で「飽き」を解消

マルチタスク作業によりドーパミンが分泌されることは前項で説明しました。
ドーパミンにより、達成感や満足感が得られるようになりやる気がアップします。しかし、ドーパミンにはそれ以外にも効果があります。

ドーパミンは集中力を増す

ドーパミンが分泌されると集中力が増すことが知られています(*2)(*3)(*4)(*5)(*6)。

たとえば ADHD ではドーパミンの伝達異常が生じ、多動や不注意という症状が引き起こされるとする考え方が広く知られています(*7)(*8)。

「マルチタスク作業は集中力が削がれる」と書いたじゃないか、矛盾じゃないか、と思うかもしれませんが、マルチタスク作業によるマイナスはドーパミンによるプラスを打ち消す程だということです。
「集中した状態で注意残余が発生すると効率が落ちる」ということは、様々な実験により明らかになっています。

では、ドーパミンによる集中力増強というのは、どのような時に効果を発揮するのでしょうか?

定例作業による「飽き」

人は定例作業(ルーチンワーク)化によって、作業への意識フェーズが低下し、エラー発生率が高くなることを以前紹介しました。

定例作業化して「飽き」ると集中力が下がります。飽きてしまった作業は、マルチタスク作業でやることにすることでドーパミン分泌による集中力アップ効果を得られるのではないでしょうか。

まとめ

マルチタスク作業は効率を落とします。
しかし、嫌いな作業に満足感を与えることや、すでに飽きてしまった作業に集中力を復活させるためなど、時と場合を選べば有用に使うこともできます。
マルチタスクは絶対的な悪ではなく、使い方を選べば我々の助けにもなりうるのです。

参考

  1. https://www.businessinsider.jp/post-228534
    「スマホの魔力が脳をハックする。『スマホ脳』著者が語る、スマホ依存の正体」
  2. W. Schultz: Multiple dopamine functions at different time courses, Annual Review of Neuroscience, 30, 259/288 (2007)
  3. W. Schultz, P. Dayan, and P.R. Montague: A neural substrate of prediction and reward, Science, 275, 1593/1599 (1997)
  4. W. Schultz: Predictive reward signal of dopamine neurons, Journal of Neurophysiology, 80–1, 1/27 (1998)
  5. J. Hoffmann and S.M. Nicola: Dopamine invigorates reward seeking by promoting cue-evoked excitation in the nucleus ac- cumbens, The Journal of Neuroscience, 34–43, 14349/14364 (2014)
  6. J.A. Hosp, A. Pekanovic, M.S. Rioult-Pedotti, and A.R. Luft: Dopaminergic @rojections from midbrain to primary motor cortex mediate motor skill learning, The Journal of Neuro- science, 31–7, 2481/2487 (2011)
  7. Bannon,M.J.,Michelhaugh,S. K.,Wang,J.,& Sacchetti, P.:The human dopamine transporter gene: Gene organization, transcriptional regulation, and potential involvement in neuropsychiatric disorders. Eur Neuropsychopharmacol, 11(6), 449-455,2001.
  8. 5)Dougherty,D.D., Bonab,A.A., Spencer,T.J.,Rauch,S.L., Madras,B.K.,& Fischman,A.J.:Dopamine transporter density in patients with attention deficit hyperactivity disorder. Lancet, 354(9196), 2132-2133,1999.

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